業界未経験からのチャレンジ 「天領盃酒造」セミナー – 前編 –

先日、新潟県・佐渡の「天領盃酒造」加登仙一社長に はせがわ酒店本社へご来社いただき、社内セミナーを開催しました。

加登さんは2018年に業界最年少かつ業界未経験で「天領盃酒造」を継承。異例の経歴がメディアで取り上げられ注目を浴び、近年では国内線ファーストクラスの機内酒搭載、全国新酒鑑評会での金賞受賞、またSAKE COMPETITIONで上位入賞を果たすなど、酒質も人気もグングン上昇中です。

まだまだこれから進化し続ける天領盃酒造・加登さんの情熱あふれるセミナーの様子を皆さまにもたっぷりお届けいたします!

● 加登仙一の「異色の経歴」

加登さんは1993年岩手県大槌町生まれ、千葉県成田市育ち。一つのことに集中すると他のことに一切興味がなくなり、のめりこんでしまうタイプだそうです。

日本酒との出会い

酒蔵の家系ではない加登さんがお酒造りを志すきっかけとなったのは、大学2年時のスイスへの派遣留学。そこで出会った様々な国の留学生たちと自分の国の文化や食べ物について話をした時に一番盛り上がったのがお酒の話でした。その時、自分自身が日本の文化を全く知らず、日本酒がどうやって造られているのかも説明できないことに気がつきます。

帰国後、その悔しさから日本文化を学び始め、なかでも日本酒に興味を持ち始めます。加登さんにとって日本酒は元々「罰ゲームで一気飲みするもの」程度のイメージしかなかったそう。しかし、飲み屋さんでおすすめを聞きつつ日本酒を飲んだところ、あまりの美味しさに衝撃を受けます。日本酒に対して持っていたイメージと 実際に飲んで美味しいと思ったそのギャップから、日本酒にどんどんのめり込んでいき、いつしか「自分で造ったお酒でアイツら(留学仲間)をギャフンと言わせたい!」という思いが芽生え、酒造りを決意することとなりました。

免許の取得に大苦戦…からのM&A!?

実家では家業を営んでいたことから「働くこと=経営者」という意識が若い頃からあった加登さん。「いつか自分自身で酒蔵を経営したい」と考え、大学3年生の時に酒類製造免許について調べたものの、酒類製造免許の新規取得は難しいということが分かり早々に断念します。

新卒では将来的な起業を前提に証券会社に入社しました。その理由は、いろいろな会社の社長さんから経営に関する知識を吸収するため。入社して約1年、日々お客様への営業活動に勤しんでいましたが、酒蔵経営を目指していると言いながらも前進していない加登さんの姿を見たとある社長さんから、「酒造免許がおりないなら、M&Aすればいい」とアドバイスをもらいました。その一言で一念発起し、買収可能な会社を探して奔走しますが、条件に合う会社はなかなか見つかりません。会社探しに苦戦する加登さんに、M&Aを勧めた社長さんが再度助け船を出し、後継者のいなかった天領盃酒造を紹介。天領盃酒造を買収するに至りました。

こうして2018年、24歳にして当時の業界最年少蔵元となったのです。

業界未経験からの酒造り

加登さんが代表取締役に就任した当時の天領盃酒造は、平均年齢60代の蔵人たちが日本酒を製造していました。蔵人からすると酒造りに関しては全くの素人である24歳の若者に「今日から社長です!」と言われても最初からすぐに納得されるものではなく、当初はかなりご苦労なさったとのことでした。

1年目は前杜氏の元でお酒造りを学び、翌年2019年は酒類総合研究所が主催する酒類醸造講習に申し込みをするも「酒造りの経験がない」との理由から断られてしまいます。しかしそれで諦めない加登社長はすぐに酒類総合研究所へ電話をし、何とか入れないかと懇願。2019年5月~6月に酒類総合研究所で酒造りを学ぶことができました。そこで同期となったのは「雨後の月」で有名な広島県・相原酒造の相原章吾社長。「雨後の月」の美味しさに魅了された加登さんは相原準一郎会長に直談判して、2019年11月に酒造りを勉強させてもらいました。さらに加登さんと相原社長は全国の酒蔵を訪れて技術を吸収し、徐々に人脈も広がっていきました。

コロナの流行で倒産の危機に

相原酒造での勉強を終えた2019年12月、いよいよ自らが杜氏となって酒造りをスタートし、新ブランド「雅楽代(うたしろ)」が誕生しました。しかし、その直後に最大の危機が訪れます。

それは、2020年初頭から世界中を未曾有の事態に巻き込んだ新型コロナウイルスの流行です。緊急事態宣言が発出され、人々は外出もままならず、飲食店は営業を制限され、お酒が売れなくなりました。ついには「倒産」の文字が頭を掠めるようになりますが、「どうせ潰れるなら、とことん前のめりに潰れてやろう」と決意。高品質な酒造りをするために製造設備のほぼ全てを短期間で一新し、酒質向上に注力していきました。

そして2021年3月頃には「これだ!」と思える酒造りの形ができ、それが現在のベースになっているそうです。そこから全国新酒鑑評会での金賞受賞、SAKE COMPETITIONでの上位入賞など実績がつくようになり、人気・知名度も上昇していきます。

近日公開の後編ではいよいよ、天領盃酒造の酒造りについてお届けします!

▼天領盃酒造のお酒はこちら
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