「紀土・無量山」平和酒造を訪ねて

みなさんこんにちは!はせがわ酒店営業部の菅野です。前回ご紹介させていただいた、兵庫県黒田庄の興奮冷めやらぬまま、今回は静岡の英君酒造さんへ行っていた営業部川嶋と合流して、和歌山県海南市の平和酒造さんへ行ってまいりました。和歌山と言えば紀州梅やみかん、桃などの果物、黒潮市場の魚介類などおいしい食べ物が多いですよね。前回から食べ物の話ばかりですが、今回訪問した平和酒造の代表銘柄「紀土」は紀州の風土を表現しているということで、食べ物以外にもちゃんと和歌山のことを事前調査!空海が開いた天空都市とよばれる高野山には多数の重要文化財や国宝があったり、白浜のアドベンチャーワールドでは愛くるしい6頭のパンダを飼育していることもリサーチしていきました!(笑)

平和酒造といえば、日本酒だけでなく、果実感たっぷりのリキュールや最近だとクラフトビールの製造でも注目を浴びています。そんな平和酒造の魅力を余すところなくお伝えしますので、最後までお付き合いお願いします!

衛生管理

蔵は最新の設備と細かいところまでメンテナンスが施されており、建物自体の築150年という年月を感じさせない装いです。木のぬくもりを感じさせる蔵であり続けたいという思いで、コンクリートではなく木造にこだわり、毎年の柿渋塗りも欠かしません。蔵内の動線にはいたる所に足ふきマットが置かれ、移動するたびにそこで足裏の汚れを落とし、不衛生なものを拡散させない工夫がされています。また、酒造りの道具も所定の位置がしっかり決められており、それらが整然と並んだ様子が印象的でした。

▲何か所にも足ふきマットが敷かれています。


▲屋根や壁は毎年柿渋で塗り直されており、非常に清潔感が感じられました。

マニュアル化

山本専務は蔵人が自ら工夫してより良いものを考え出す土台が必要と考え、酒造りの“マニュアル化”を図っています。経験と勘だけに頼るのではなく、マニュアルにより蔵人達に共通の認識が芽生えると、それがたたき台となって更に発展的な工夫を生むことが出来る様になるからです。そこから生まれた工夫の1つとして、“たらい麹”の採用があります。吟醸造りの製麹作業では、木製の麹箱を用いる蔵が一般的です。麹箱は木の風通しの良さを利用して、麹米の乾燥とはぜ込みを同時に進めることができます。しかし、同時に2つの事柄を気にしなくてはいけないので管理は難しくなります。一方、たらい麹はプラスチックで湿気が逃げないので、仲仕事までの間にしっかり麹を乾燥させておく必要があります。ですが、それさえすれば麹をたらいに移した後は、はぜ込みだけが進むため管理が容易になります。1つの事柄に集中することで麹は安定し、作業にめりはりが生まれたといいます。


▲たらい麹の説明をしてくださる山本専務。プラスチック製のたらいで、これを使い始めてから麹が安定したとのこと。

検査室内の機器もかなり充実していました。他の県では、当たり前に醸造試験場に行けば成分を検査してもらえたり、先生に指示を仰いだりできるそうですが、和歌山はもともと米の輸入県で、梅酒を売って米を買わなければいけなかったので、梅酒づくりの指導者はいても日本酒の醸造指導をする先生はいないといいます。そのため平和酒造では独自できちんと検査ができる機器を取り揃えているのです。


▲充実した検査器具。これも変わらず愛される味わいが保たれている1つの要因。

この蔵で働き続けたいと思える環境づくり

山本専務が人員の採用をするようなってからは、100%新卒採用に切り替えました。それに伴い女性社員率が高くなり、男性と比べた時に体力と力の差が生まれてしまいました。そこで、機材の多くを軽量化し、道具もプラスチック製のものを増やすことで、男女でも変わらない仕事ができるように工夫しました。また、平和酒造は蔵人の9割以上が県外出身者という珍しい蔵でもあります。その為社員寮もしっかりと完備!酒造りに対し熱い志の人を集めるのに県の境は関係ないのですね!平和酒造の蔵人の方々がいつも生き生きと高いモチベーションで酒造りに取り組むことができる工夫が蔵の随所で確認できました。


▲鉄製の重たい容器はプラスチックに変更しました。


▲2018年に新設した社員寮。確かにここで生活できるならモチベーションも上がりますね。

自社田

蔵のすぐ脇に自社田があり現在4反の田んぼで山田錦の自社栽培に取り組んでいます。米だけでなく梅の栽培や3年前からは柚子の栽培も始めました。全生産量のごく一部になりますが、徐々に原料への注力も形になってきています。今年は稲の花が咲き始めた頃に台風が直撃し、籾が傷ついたり、うまく受粉できなかったりして黒くなってしまっている稲が多く見受けられました。これは和歌山だけに限ったことではなく、他の地域の田んぼでも見受けられた現象です。受粉できていないと籾の中に米はできず空洞になってしまい、収穫量も減ります。今年は全国的に酒米が足りなくなるのではという声も上がっています。


▲悪天候を乗り越え収穫の時期を迎えた山田錦たち

平和酒造次の挑戦

平和酒造山本専務が「紀土」ブランドを立ち上げてから10年が経ち、ここまで多くの人々に飲まれ、愛される銘柄に成長しました。「紀土」の季節商品やコラボ商品などには必ず“風”の文字が入っています。「紀土」シリーズでは、山々の間を吹き抜ける風のように軽やかな味わいが基調となっており、カジュアルに親しみやすく日本酒を飲んでもらいたいという想いが込められています。また、ここまで知名度のある銘柄にも関わらず、皆が手に取りやすいような価格を守り続けている貴重な銘柄で、初めて飲む日本酒、日常で飲む日本酒のレベルを上げていきたいという山本専務の考えが反映されています。ここまでの「紀土」ブランドの広がりは蔵人1人1人の成長なしには語れません。どの蔵にも負けないくらいくらい努力も勉強も設備投資もしてきました。そして2017年、そんな平和酒造の真の実力を発揮するべく生まれた銘柄が「無量山」!平和酒造はもともと「無量山超願寺」というお寺であり、そこから名前を取ったブランドです。お食事のメイン料理としっかり合わせられる様な厚みのある味わいを目指しており、使用米もすべて兵庫県産特Aの山田錦。「紀土」が10年かけて成長してきた様に「無量山」もじっくり育てていきたいという山本専務。10年後の「無量山」がどの様に成長しているか今から楽しみで仕方がありません!和歌山の風土を感じるお酒たちをこの機会に是非お試しください。

▲お寺だったころから残る無量山の文字。