「英君」英君酒造を訪ねて

みなさんこんにちは! はせがわ酒店営業部の川嶋です。菅野のチーム九平次さんとの記事は読んでいただけましたでしょうか。普段なかなか触れない酒米のお話。私たちも考えさせられるものがありました。まだ読んでいない方は、是非ご覧ください。ところ変わって私は、静岡県の英君酒造さんにお邪魔してまいりました。静岡といえば、お茶や富士山などが真っ先に思い浮かびますよね。意外と知られていないですが、マグロの水揚げ量が日本一なのも静岡県なのです。また、駿河湾の絶景を眺めながらのサイクリングも最高だと聞いています。そして、我々酒販店にとっては美味しいお酒を醸す酒蔵さんの数が非常に多くある印象です。

英君酒造さんは、はせがわ酒店とお取引をさせて頂き約1 年半とまだ日が浅い、静岡県静岡市清水区にある蔵元さんです。以前はカプロン酸を中心に、香り華やかなお酒を造っていたそうですが、今は静岡酵母を中心に使用し、食中酒としての位置づけに、主張しすぎないほのかな香りの酢酸イソアミル系にシフトしました。鑑評会用のお酒もカプロン酸系では出品していないそうです。

もともとは、明治14 年に望月酒造店として開業しました。その後、静岡県にゆかりのある徳川家康にあやかって、優れた君主=「英君」と名付けたそうです。蔵の所在地は山と海に挟まれた平地の少ない場所で、東海道の宿場町として古くから栄えていました。蔵はその土地の山側にあり、昨今度重なる台風や豪雨により土砂崩れも度々おきています。先日の台風24 号では長時間停電になり、明けてみれば蔵や土蔵の壁が剥がれたり、崩れたりしている場所もちらほら。歴史的建造物になっているので、易々と取り壊せない現状があります。さて、今回私がお伺いしたときは本格的に造りが始まる1週間前。造りに向けて器具の準備や清掃に勤しむ蔵人さんを目に留めながら、ゆっくりと蔵内を見せて頂くことができました。その蔵の設備を写真と一緒にご紹介していきます。


▲写真左は洗米用の水をためるタンクです。洗米する際は5キロ毎に分け、ウッドソンの洗米機で洗米後、更に写真右の洗米機にて2度洗いをします。こちらが青島酒造(喜久酔)さんと工業技術センターで開発された洗米機で、ざるを枠にセットするとグルグル回り、1分毎に上から大量の水が広がる様に噴射してくるそうです。徹底的な洗米をする事で、糠を落とし米由来の雑味が残らないよう心掛けています。その後限定吸水をさせます。


▲写真左は蔵内にある、仕込み水が湧いている井戸の写真です。以前は、蔵から3 キロほど離れた所、由比川上流の桜野沢を仕込み水として使用していました。しかし、4 年ほど前、台風で3、4 カ所あった水源の1つがつぶれ、街全体が水不足になってしまったそうです。そんな時、蔵の敷地に使っていない井戸を発見。調査してみるとなんと1 時間に2,000ℓ湧き出でていまいした。水質検査をした所、営業許可が下りたとの事。また、醸造協会へ詳しい分析を依頼した結果、リン酸とマグネシウムが豊富で鉄分が少ない、仕込み水に理想的な水質であることが判明しました。2018年から仕込みに使用するそうで、仕上がり具合に期待してわくわくしているそうです。今後、桜野沢と2 本立てで使用する事により、周りにも迷惑をかけず、安心して水の確保が出来ると喜んでいました。甑(こしき)は和釜甑(わがまこしき)を使用しています。写真右のボイラーで蒸気を起こし、天井から出ている管と繋ぎ、2階に蒸気を引っ張っていき蒸しあげます。蒸気を2 階に上げると、温度が2~3 度は下がるので、圧力をかけ乾燥蒸気にし、106 度まで上げます。そうしないと水っぽい蒸し上がりになってしまうそうです。1度に蒸すのは600kg~700kgで、蒸上がるとスコップで掘り起し、蒸米放冷機に移します。


▲見学当日、最高気温29 度と10 月とは思えないくらい暑かったです。ここ最近、気温が安定しないので、3 年前に写真の冷気を造りだす機械を導入しました。蒸米放冷機のダクトに繋げ、素早く温度が下がる様にしています。同時に0 度迄の冷水を作る事ができ、仕込み水を思った通りの温度にします。暑さ対策に余念がありません。


▲麹室は3つの部屋に分かれています。1つ目が、引き込んで種を切る部屋。2つ目が、2日目の朝、もみ上げをし、湿度を高めに設定して繁殖を促す部屋。そして写真が3つ目の部屋で、夕方になって麹をここに移動し枯らしていきます。こちらは温度が高めでやや乾燥気味にする事により、表面が乾燥し、中に残った水分めがけて破精こんでいくようになっています。写真右上部にある機械は、前杜氏さんが現役の頃、杜氏さんを含めご高齢の方がおり、その方の夜間作業の負担を減らそうと、工業技術センターと共同で開発した機械です。真ん中にレーンがあり動いて捌いていくのですが、機械が触った所のお米が何故か青くなってしまい、結局うまくいかず手作業に戻すことに。間もなく杜氏さんが引退、粒來(つぶらい)さんという若い杜氏さんが継がれ、他の蔵人さんも若いスタッフが集まり、体力の心配をする必要がなくなり、結局全く使用しなかったそうです。


▲こちらがヤブタといわれる搾り機。2017年に、ヤブタを最新式の物にし、冷蔵庫で囲い、プラズマクラスターを設置。品質管理を徹底し、必要のない香りがつかなくなりました。2018年は最新の分析器を導入予定だそうです。手作業でやるとどうしてもブレがでてしまうため、全自動の分析器があれば更なる酒質向上に期待できると意気込んでおりました。搾ったお酒は基本瓶貯蔵で2~3℃、高くても5℃の冷蔵庫で保管しています。年に数回だけ仕込む本醸造はタンク貯蔵。別に氷温貯蔵できる部屋もありそちらは大吟醸や出品酒などを保管しています。

望月社長(上写真)は常に蔵に投資していく事を怠りません。他の蔵に比べると、とても小さい蔵だからなかなか儲からないのだけどね、と笑って話されていました。ただ、常にここまでやるというヴィジョンは持っていらっしゃいます。英君というブランドの中で、1つ軸を作り、他の商品はそれを取り囲む護衛の様な存在のお酒を目指していらっしゃるそう。どれ1つとして陳腐化しない様にだけは気を付けています。

前杜氏さんが引退されて7 年。今は前杜氏さんの下で副杜氏をしていた粒来(つぶらい)さんが引き継ぎ、副杜氏には榛葉(しんば)さんを迎えました。榛葉さんは同じ静岡県にある、土井酒造(開運)の現杜氏さんのお兄さんです。みんな同世代という事で、なんでも話ができ、とても風通しの良い会社になってきたとの事。この業界はどうしてもトップダウンになりがちで、決断が早い反面、言いたい事が中々言えなくなっていまいがち。今はみんなでお酒の為にはどうすればいいのかと真剣に悩み、考え、行動していける会社になって来たとおっしゃっていました。例えば、静岡酵母を使っているからそれでいいやとかまけるのではなく、次のステップに進化するにはどうすればいいのか、望月社長をはじめ、みんなで一緒に考えていき、お酒業界の一端を盛り上げて行くのだ!と切磋琢磨している最中であると大変な熱量をお持ちでした。まだまだ小さくてそこまで有名な蔵ではないかもしれませんが、穏やかな中に秘めた情熱を持った英君酒造の姿に未来を切り開いていく可能性を感じました。静岡の英君、是非試してみていただきたい商品です。