岩手県 赤武酒造 杜氏 古舘龍之介さんにセミナーを行っていただきました。
実はでっかい岩手県
北海道に次ぎ、国内2位の面積を誇る岩手県。その広さは四国がスッポリ納まってしまうほどです。そんな広い岩手県の東側、海に面した大槌町赤浜にて、もともとは漁師であった先代古舘武兵衛が、明治29年に蔵の場所と先代の名前を文字って「赤武酒造」を創業しました。
多くを失ったあの日
古舘さんは高校時代、空手でインターハイに出場するほどのスポーツマンでしたが、大学選びの際、東京に出たかったことと、せっかく学ぶのであれば身になるものを学ぼうと、酒蔵である家業を継ぐことを意識し、東京農業大学に通い始めます。そんな大学生のある日、思いがけない出来事が起こりました。平成23年3月に起きた、東日本大震災です。蔵のあった岩手県大槌町は海に面しており、その被害は甚大なものでした。父親で代表の古舘秀峰さんから「もう酒造りができない。東京でどこか就職してくれ。」そう言われた時は、頭の中が真っ白で何も考えられない状況だった、とても再び酒造りができるとは思っていなかったそうです。しかし震災から2か月後の平成23年5月、同県盛岡市に仮工場を移し、リキュールの製造を始めます。周りの反対を押し切っての再出発だったそうです。さらに同年12月、岩手県内の他の蔵元さんの設備を借りながら、製造技術を学びつつ、かつての銘柄「浜娘」の再出荷を始めます。そして平成25年、新蔵を建て、ついに震災後初の赤武酒造としての酒造りがスタートし、その1年後、平成26年ついに古舘さんが蔵に入り、いよいよ新体制での酒造りがスタートします。
「1、人 2、衛生 3、酒造り」
蔵に入った古舘さんは、自分のような若い世代にも、かっこよく美味しい日本酒を飲んでほしいと新ブランド「AKABU」を立ち上げます。ラベルのデザインも同蔵の蔵人が手掛けます。まったくの素人からの酒造り。幸い蔵の隣に、県内の物造り支援を行っている「岩手県工業技術センター」があり、1日のうちに何回も通い、「電話をすれば5分で来てもらっていました。」と、当時の酒造りを思い出し苦笑しながらおっしゃっていました。
目指す酒質はフレッシュで綺麗な味わいのお酒。そんなお酒を造る為に一役買っているのが震災後に建てた新蔵です。こちらは、酒造りをする蔵ではなく、食品工場の造りを参考にしています。入り口を2階に造ることで害虫やホコリの進入を防ぎ、廊下の床の角を丸くすることでゴミやホコリが溜まりにくくなっています。
意識しているのは衛生面だけでありません。働くスタッフの事も考えた酒造りをしています。「冷たい水より丁寧な作業ができる」ことから蔵内の水道からはお湯がでるようになっており冬場の作業のケアを。また働く時は必ず2人1組で作業し、安全面にも気を付けています。さらに驚かされたのが、なんと赤武酒造は完全週休2日制ということ。造りのシーズンでも完全週休2日制です!!しかも夜中の室での作業なども、造りの工程を練りに練った結果必要なくなったそうです。「父がそういった働き方をきちんと管理してくれているので、自分は酒造りに集中できています。」とお話ししてくださいました。働く人のことを真剣に考えた環境造りによって、皆が万全の状態で酒造りに臨めるからこそ、近年の「AKABU」のめざましい活躍に繋がっているんだと感じました。
手探りながらも毎日研鑽を重ね製造をしていく過程で、その酒造りはどんどん洗練されていき、古舘さんが造りに携わりわずか2年にも関わらず、SAKE COMPETITION 2016にて「AKABU」が次々とGOLD、SILVERを獲得します。その後のSAKE COMPETITION 2017、2018でも軒並みノミネートを続け、岩手の代表銘柄の仲間入りを果たしたと言っても過言ではありません。
【蔵元情報】
赤武酒造株式会社
〒020-0857 岩手県盛岡市北飯岡1-8-60
TEL:019-681-8895 FAX:019-681-8897
HP:https://www.akabu1.com