蔵元紹介 五町田酒造 東一

皆さんこんにちは!亀戸店の河合です。突然ですが、みなさんは「東一」というお酒をご存じでしょうか。往年の日本酒ファンの方なら、九州随一の名酒として1度は味わったことがあるかもしれません。スタッフにもファンが多く、飲食店さんからも根強い支持があります。ちなみに、読み方は「とういち」や「ひがしいち」ではなく「あずまいち」です。ドキッとした方はぜひ覚えてくださいね。

実は今、この東一を醸す五町田酒造では造り手の世代交代が進み、伝統を受け継ぎながら新しい変化が起きつつあります。今回の記事では、若くして五町田酒造の製造部長を任される高木大輔さんから伺ったお話を中心に、「米から育てる酒造り」を掲げる蔵の特色や、実際にどんな酒造りをしているのか、そしてこれからの蔵の未来について改めて皆様にお伝え出来ればと思います。

1.米作り「原料に勝る技術なし」

蔵ではかねてより、今後この業界で生き残るためには、よい純米酒を造る事が不可欠と考えていましたが、「原料に勝る技術なし」という言葉の通り、良い米がなくては良い酒は造れません。その為、前製造部長の勝木慶一郎さんらが中心となり、昭和63年、九州では珍しかった山田錦の栽培にいち早く取り組みました。最初は栽培の許可が下りなかった事や、山田錦に不向きな土壌だった事もあり、苦労の連続だったそう。今でこそ東一の酒造りにおける主力品種は酒米の王様「山田錦」ですが、そうなるまでに大変な時間と労力がかかりました。

気候や生育状況、品種の特性などを判断しながら稲を健全に育成し、また酒米としての質を得るためには、それを判断できる酒蔵と栽培のプロである農家の持続的な協力が必要です。蔵人も田植えをし、見回りはほとんど毎日。特に栽培の要となる水位には気をつけているそう。山田錦栽培の挑戦を始めた当初から、五町田酒造がまとめ役となり農家さんの協力を取り付け、作付けや、種の保存管理を行ってきました。中でも品質の維持向上の為には種の選抜や管理が大切で、山田錦の有力産地では自治体が主導して行っています。佐賀県では2018年に奨励品種になりましたが、現在も種の保存は実績がある五町田酒造が担っています。

2.酒づくり「伝統の技術を活かした酒造り」

五町田酒造の酒造りで面白い点は、最新の機械はほとんどなく、手作りや木製の仕込み道具を使用していることです。米を洗うざるはなんと竹を編み込んだ昔ながらの竹ざる!ステンレスと違って表面張力が発生しないため、サーキュレーター(吸引機)がなくてもしっかりと水を切ることができます。米を蒸す甑も、蒸米を掘り出すスコップも木製。軽くて取り回しがよく、蒸米がくっつきづらいとのこと。これは実際に蔵見学に行ったスタッフも蒸米が驚くほどパラパラだったと言っていました。木の断熱効果のおかげで、甑内が外気で冷やされないので蒸気が水滴となって蒸米を濡らしてしまう事がないのだそうです。また、洗米機についても最近多くの蔵が取り入れているウッドソンでなく、塚本鑛吉商店製のスパイラル吟洗号を昔から使用し続けています。

そんな五町田酒造が直近で導入したのが3台目となる甑です。最新設備の導入よりもすでにある甑を増やしたのには、蔵人の労働環境の改善という理由がありました。2台の甑で運用していた時は、 誰かしらが交代で早出をして仕込みスケジュールをやりくりしていましたが、3台となることで皆が定時で働けるようになったそうです。「早出をお願いするということは、その人の家族は更に早く起きてその人を送り出す準備をしなくてはならない。そうした周りの方々にも協力を強いたうえで酒造りが成り立っていたという事。ここをずっと改善したいと思っていて、なんとか今年そこを変えることが出来ました。」とは瀬頭社長の言葉。昔からの伝統だからとか、お酒は生き物だから、という観念にとらわれず、良い物は残し、変えるべき事は日々改善を試みる姿勢に感銘を受けました。

3.ブランド育成「ハイエンドを飲みたくなる純米」

ところで東一は吟醸や大吟醸クラスでは、綺麗な果実味や爽やかな酸を感じさせる、今どきのお酒の源流とも言える味わいをいち早く表現してきました。一方でもっともよく飲まれる純米酒だけはクラシックな辛口酒でした。なぜなら普段、普通酒を飲んでいる方に、それに代わる純米酒を飲んで欲しいというコンセプトがあったからです。しかし今、五町田酒造では「これでは変遷していく日本酒の中で取り残されてしまう。」「純米酒から入り、純米吟醸、純米大吟醸へと進んでもらえるお酒にしていきたい。」との思いから高木さんら若手が中心となり、新たに「吟醸造りで醸す純米酒造り」に取り組んでいます。純米酒は多くの方に飲んでいただく名刺代わりの1杯だからこそ、持てるすべての技術を注ぎ込むという気概を持って臨んでいます。

▲木製甑で蒸米はパラパラ

そうして誕生したのが現在販売中の「GOMARU」です。ラベル中央に大きく描かれているのは、もともと佐賀県内向けの東一のラベルにひっそりとあしらわれた五町田酒造のロゴです。背景のペンタゴンタイルはなんだかお米にも、雫にも見えてきます。味わいは食中を意識した穏やかで心地よい香りがあり、丸みのあるタッチが印象的。吟醸造りらしく以前よりクリアで澄んだ旨味が感じられます。主張しすぎない香味の絶妙なバランスから、純米酒がどんなシーンで求められているのかが、しっかり考えられているのが伝わってきます。ちなみにこのお酒を仕込む際には前製造部長の勝木さんが発案したオリジナルの吟醸タンクを使用しています。通常より細身で底部が円錐状に突き出た形状になっています。これによってもろみに対流が生まれ、タンク内で温度ムラが出来にくく、温度の調節もしやすいといった特徴があります。

▲酵母の数を数える/対流を生み出す特注タンク

最後に

五町田酒造での米作りや酒造りへの取り組みは全国各地の蔵元のお手本となってきましたが、そのすごさの本質は決して技術やノウハウの面だけでなく、蔵や農家そして蔵人の家族など、東一というお酒に関わる人同士のつながりを大切にした和醸良酒の精神にある事を感じました。

現在はご紹介した吟醸造りの純米酒「GOMARU」への取り組みの他、いずれ全量佐賀県産山田錦への転換などを目指し、さらに東一の可能性を追い求めていきたいとの事です。

ぜひ皆様も新しく生まれ変わりつつある東一に注目してみてください。


▲東一の新しい純米酒「GOMARU」