茨城県 府中誉株式会社 代表取締役 山内孝明さんにセミナーを行っていただきました。
府中とは?
蔵元名にもなっている「府中」ですが、茨城県が常陸国と呼ばれていた奈良平安時代、蔵のある石岡市に国府が置かれ、「府中」と呼ばれていた事に由来しているそうです。同様の理由で、現在茨城県以外にも、全国には「府中」と呼ばれている地域があります。
茨城県は〇〇が盛ん!
「ところで茨城県といえば何を思い浮かべますか?」と私たちに問いかけた山内さん。「この紋所が目に入らぬか!?」で有名な水戸黄門や、水戸納豆などが思い浮かびましたが、「実は47都道府県人気ランキングで5年連続最下位なんです。」と笑いながらおっしゃっていました。しかし非常に農業が盛んな地域でもあり、れんこんやピーマンや白菜など、全国1~3位の収穫量を誇る農産物が沢山あるという話もあわせてしていただきました。
府中誉はこんなお酒
府中誉といえば、酒米の最高峰「山田錦」の親としても知名度の高い「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」を使用した日本酒です。そのお酒は、1996年全国新酒鑑評会で初めて金賞を獲得、2017年にはインターナショナルワインチャレンジにて純米吟醸部門で金賞を、さらに2018年のSAKE COMPETITIONでは、はせがわ酒店賞を受賞するなど年々注目度が上がっています。
種籾求めて三千里・・・
今では様々な蔵で使用され、目にする機会も少なくはない「短稈渡船」ですが、今日に至るまでは苦難の連続でした。1989年、勤めていた会社を退職され、実家の酒蔵に戻った山内さんは、「地元農家が育てた酒米で、日本酒を造りたい。」と、考えていました。茨城県といえば全国屈指の農業県でありながら、酒米の栽培実績がほとんど無い状態でした。そんな中、地元農家の方から、全国どの農家でも栽培されなくなった酒米「短稈渡船」を以前身内が育てていた事があると教えてもらいます。それまで全く耳にしたことのなかった酒米に面白さを感じ、山内さんはこれを活用しない手はないと考え、種籾を探しに全国を飛び回る日々を送るようになりました。
しかし全国どこを探し回っても、目的の渡船はおろか長らく栽培が途絶えた渡船自体を知っている人すら見つけることが出来ず、これはだめかもしれないと思いはじめました。諦めかけたその矢先に、なんと地元の茨城県つくば市にある、農業生物資源研究所(現農業・食品産業技術総合研究機構)に種籾が保管されているとの情報を得ます。早速種籾を分けてもらえないか訪ねていったものの、国の研究機関との交渉は難航しました。しかし、何度も通い続けるうちに山内さんの熱意が伝わり、ついに試験栽培の許可を得ます。その時、分けてもらえた種籾の量はたったの14グラムだったそうです。
早速地元の農家協力のもと、作付けを開始します。「短稈渡船」といえば、病弱で発育が遅く、他の酒造好適米に比べると栽培が難しいことで知られています。1989年から2年かけて種籾を増やし苦節の末、1992年にようやくタンク1本分のお酒を仕込むことに成功しました。超軟質で溶けやすく、吸水コントロールが難しい、さらには高精白に向かない「短稈渡船」。しかしながら初めての挑戦で出来上がったお酒はとても美味しく、復活米のストーリーと共に一躍話題となりました。その時のことを山内さんは「おそらくビギナーズラックです。」とにっこり語ってくださいました。
酒質向上の為、ワインから学んだこと
そんな府中誉で大切にしている酒造りの合言葉は「造り半分、詰め半分」。酒造りは搾って完了ではないと強くおっしゃっていました。ワインの造りを見学した時、醸造過程よりも搾った後の貯蔵や熟成に神経を使っていることに気が付きました。山内さんはこの事を日本酒の製造に活かせば、さらに酒質の向上が図れると考えたそうです。そうして府中誉では搾る際、従来のポンプではなくワイン用のポンプを使用することで「揺らさず、ストレスを与えず」お酒を搾ります。さらに、高気密タンクへ移動させ、窒素をタンクの空洞部分に充填し、「空気に触れさせない」ことでお酒の劣化を防ぎます。お酒はすべて瓶燗し、急冷を経て、全量冷蔵瓶貯蔵されます。その為、多少ガスが残っているお酒もありますが、これはお酒が丁寧に瓶詰めされ保管されていた証拠でもあります。
徐々に味わいへの評価が高まっています
蔵の代名詞ともいえる渡船とこだわりの技術で酒を醸す府中誉。目指すのは「人に寄り添い、思わず笑顔が浮かぶ」、そんなお酒を醸すこと。それを実現するためにお酒に対してどこまでも丁寧に真摯に向き合い続けているのを感じました。山内さんをはじめ、蔵の方の想いや重ねてきた努力が実を結び、近年様々なコンクールでの受賞をするなどの評価に繋がっています。皆様もぜひ注目してみてください。
【蔵元情報】
府中誉株式会社
〒315-0014 茨城県石岡市国府5-9-32
TEL.0299-23-0233 FAX.0299-23-0234
HP: http://www.huchuhomare.com