はじめまして!二子玉川店の松丸です。突然ですが皆さんは、「新潟のお酒」と言ったらどんなイメージが浮かぶでしょうか。米どころで酒どころでもあり、『八海山』や『越乃寒梅』など、超有名銘柄がパッと思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。味わいに関しては、殆どの方が「淡麗辛口!」と声を揃えるかと思います。今年は新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止となりましたが、毎年大変な賑わいをみせる「新潟酒の陣」なども有名ですよね♪
今回私は、酒どころ新潟で、「NEO淡麗」を掲げて『山城屋』ブランドで注目の越銘醸さんに訪問させていただきました。
▲蔵の入り口です。風格ある看板と暖簾が出迎えてくれます。
▲山城屋のラインナップ
『山城屋』、今のスタイルに至るまで
一般的に「新潟といえば淡麗辛口」というイメージがあるかと思いますが、『山城屋』では、「新潟=淡麗」のイメージはそのままに、発酵によって生まれるピュアな淡麗さを追い求めることにしています。「昔からあったものの新しいカタチ」という意味合いを込めて「NEO淡麗」と名付けました。このスタイルに行きつくまでには長い道のりがあったそうです。元々越銘醸様では『越の鶴』という銘柄を醸造しており、それを蔵の半径約30キロ圏内で販売する小さな蔵元様でした。辛口日本酒ブームの1980年代から平成初期頃までは、他社のレシピでお酒を造って買ってもらう「桶売り」もしていたそうです。一方、学生時代にバーテンダーになりたいと思っていた小林さんは、東京農業大学に進学しますが、在学中に焼酎に惹かれ、『富乃宝山』で有名な西酒造様に就職します。そこで7年間焼酎を造りながらワインや日本酒のことを学んだ後、地元の新潟県に戻り、越銘醸様に入ります。この頃には桶売り契約は切れており、『越の鶴』のみの製造となっていましたが、季節雇用の杜氏さんが高齢化のため辞めてしまうなどしたため、最初はアルバイトのような形で入った小林さんも、だんだんとお酒造りの中心部分を担うようになっていきました。
しかし、いざ「自分たちの造りたいもの」を考えてみた時、絶望的なほど「造りたい酒質」や「販売経路」がなく、本当にマイナスからのスタートだったそうです。また、前述の辛口日本酒ブームで新潟のお酒が大変な人気を博したことから、県内外では「新潟のお酒が一番」という想いをもつ方も多く、小林さんとしてはその期待を良い意味で裏切るような、新しい新潟のお酒を造りたいと思い、2015年に自らのブランド『山城屋』を立ち上げ、県外で販売を始めます。初めは香り華やかで糖度も高い流行の味わいでしたが、しばらくして「自分たちが飲み続けたい酒ではない」と気づき、糖度を下げて生酛で仕込む現在のスタイルに辿り着きました。
ちなみに「生酛仕込み」とは、日本酒の元となる酒母の昔ながらの造り方で、自然の乳酸を取り入れることによって、雑菌の繁殖を抑えるやり方です。現在主流になっている「速醸酛」は、人工的に培養した乳酸を加えて仕込むため、「生酛」の方が何倍も手間と時間がかかります。しかし、この造り方にすることで、お酒に多くの旨み成分ときめ細やかな酸味が加わるのです。『山城屋』は全て生酛仕込みなので、酒母を造る際には速醸よりも水を30%少なくして濃度を高くし、温度を下げて雑菌の繁殖を防いでいるそうです。また、時間はなんと速醸の3倍かかるとのことでした。
「生酛仕込み」で有名なお酒は色々とありますが、私は個人的に、山城屋を「モダン生酛」と呼んでいます。昔ながらのガツン!とした香りやフルボディの味わいではなく、穏やかな香りと綺麗で細やかな酸味、そして素朴な旨味が感じられる食中酒だからです。冷やも美味しいですが、お燗にしてもしみじみ美味しい万能酒ですので、その日の気温や気分に合わせてぜひ試してみてください!
▲今期試験的に仕込んだ、蔵付酵母の生酛の酒母。見学をした際には、もこもこと力強い泡が立っていました。
設備投資とスタートライン
さて、ここまで綺麗で緻密に造り上げられた『山城屋』は、もう完成されたスタイルなのかと思いきや、小林さんは「まだスタートラインに立ったばかり」と仰います。それは、ものづくり補助金のおかげで、今年になってようやく必要最低限の設備を入れ替えることができたからだそうです。小林さんは『山城屋』を立ち上げてから毎年この制度に応募して、醪の品温管理ができるサーマルタンクをはじめ、洗米機のウッドソンやヤブタの冷蔵室などを導入してきました。
▲サーマルタンクやウッドソンなど、ものづくり補助金で導入した最新の設備がところどころに見受けられます。蔵は常に寒いので、見た目だけでも暖かくしようと蔵人たちで塗った、赤と黄色のヤブタがポップでした
設備も揃い、いよいよこれからスタートダッシュを切る小林さんと『山城屋』。その田んぼは蔵から車で15分ほど、標高210mの場所にあります。お米作りにおいては標高200〜400mが良いと言われており、このくらいだと一日を通してほどよい寒暖差があり、稲が順調に育つそうです。
▲『山城屋』で使うお米を栽培している田んぼ。遠くに山脈が見え、視界が開けて広々とし、日当たりがよく、常に風が吹いているとても気持ちの良い場所でした。
現在は2つの農業組合と契約し、密に連絡を取り合いながらお米作りを行なっていますが、地球温暖化による環境の変化や詳しい土壌の調査、そして作柄に合わせてお酒造りを変えていくことなど、より良いお酒を造るには農業参入は免れないと仰っていたのが印象的でした。今後は蔵人さん達と一緒に、より深くお米作りに携わり、村や区画ごとの仕込みなど日本酒だからこそできる様々なことにチャレンジすることで「世界を切り拓くお酒を創っていきたい」とのことです!
小林さんの熱い想いを乗せて、これからもどんどん進化していきそうな『山城屋』。今後も目が離せない注目のお酒となりそうです。