みなさんこんにちは。はせがわ酒店営業部の菅野です。いろいろな美味しいものが味わえる季節になってきましたね。日本には数えきれないほど美味しいものがありますが、何といってもこの時期は新米!お米が美味しい日本に生まれた幸せを噛みしめています(*^_^*)お米は日本人にとってなくてはならないもの。なかでも私たち、はせがわ酒店は日本酒を販売しておりますので、酒米には特に親近感を持っています。栽培される地域や気候の違いに合わせて全国で多くの酒米が栽培されており、その特徴も様々です。
日本では米作りは農家、酒づくりは酒屋と国によって役割を分けられ、その間には国の様々な機関が入っていたため距離がありました。最近では農地法も変わり酒米づくりと酒づくりの距離がぐっと近づきつつあります。日本酒蔵の中にはワインのように、土地の特徴をいかした原料米の栽培を農家さんと一緒に取り組んだり、酒米の特徴からその土地を表現する酒造りを行ったりする造り手が増えてきました。
先日、はせがわ酒店にお越しくださった蔵元さんも、他に先駆けて田んぼから作る日本酒造りを行っており、お話を伺っているうちに、「そうだ、田んぼへ行こう!」という気持ちが高まりました。いてもたってもいられず、その蔵元さんが酒米の王様、山田錦を栽培する田んぼにお邪魔してきましたので蔵元さんの取り組みと合わせてご紹介させていただきます。
出発!
今回、快く田んぼの見学を了承してくださったのは、愛知県で「醸し人九平次」を醸造している萬乗醸造さん。向かう場所は、兵庫県西脇市黒田庄町。兵庫県は国内屈指の山田錦の生産地です。新大阪でバスに乗り、都会の風景からだんだんと自然の風景が増えていくのを楽しみながら田んぼへ向かいます。もともと萬乗醸造さんが、昔から村米制度で契約栽培をしてもらっていたのが黒田庄の農家さんで、その縁があって黒田庄で山田錦栽培の取り組みが始まりました。バスの終点で降りると、㈱アグリ九平次代表の金子さんが田んぼまで案内して下さいました。
▲今回黒田庄を案内してくださった、㈱アグリ九平次代表の金子さん。つなぎが似合うナイスガイです。
初めて自社所有田となった黒田庄町田高地区の田んぼ
㈱アグリ九平次とは、兵庫県産山田錦を名乗るために黒田庄町田高でつくった法人になります。2010年から黒田庄で自家栽培の取り組みが始まったのですが、法律の決まりで、愛知県の法人が育てた酒米を使用すると、愛知県産米という表示になってしまう為だそうです。㈱アグリ九平治で最初に取得した自社田が黒田庄町田高地区にあり、非常に思い入れのある田んぼだと教えて下さいました。
▲㈱アグリ九平治で1番最初に買い上げた田高地区の田んぼ。1本1本の穂が上を向き、きちんと日光を浴びているのがわかります。
収穫量を求めない健全な酒米づくり
「倒れている様で倒れきっていないのが良い山田錦。」という農家さんの共通認識があります。山田錦は粒が大きく、収穫前になるとほぼ倒れかかった状態になります。酒米を栽培する農家さんにとっては収穫量も重要なポイントの為、あまり苗を間引かず、肥料を使い、大粒で背の高い稲を育てます。しかし、㈱アグリ九平治の田んぼはどれも腰くらいの高さの稲ばかりでした。肥料を極力抑えて育てた苗を間引いて田んぼに植えると、それぞれの稲が生長段階からしっかり日光を浴びる為、光を求めて稲が高くなりすぎるのを防ぐことができます。倒れた稲の上の方は太陽を浴びて黄色くなりますが、中の部分は完全に育成しない状態が続いてしまいます。一方、倒れずに登熟を迎える稲は均一に日光を浴びているので1粒1粒が健全で良質な酒米に育つのです。他の農家さんが育てている田んぼと、金子さん達が育てられている田んぼを見ると明らかに稲の高さと色が違うのが一目瞭然でした。
▲一般的な山田錦。粒が大きく、背の高い稲が倒れかかっており、これが一般的には良い山田錦とされる生育状況。
▲田んぼの中で一部地面が下がっている場所。水が抜けきらず、栄養分が過剰に稲に行ってしまいこの場所だけ倒れてしまっています。1つの田んぼと言っても均一ではないのですね。これが農業の難しいところ。
▲門柳地区の稲は今夏、日照りで十分な水分が与えられなかった時期が続き、その後一気に雨が降った為倒れている稲が見受けられました。10/6時点で5割程度は緑の状態。
自社田と借り田んぼの違い~減反政策の現状~
昔は農家1人1人が田んぼを耕すのではなく、村全体で一緒に田植えや稲刈りをし、協力し合って米を育てていました。その風習は今でも残っており、減反政策による転作に現れています。転作とは、同じ農地でそれまで生産していたものとは違う農作物を生産することですが、1人の農家さんが自分の田んぼで決めるのではなく、村でエリアを分割し、年ごとに村で決められた田んぼが転作地になります。つまり借りている土地が、数年に1回は転作地となり、麦や豆など他の作物を植えなければならず、土からの田んぼづくりに取り組めないのだといいます。また2018年より減反政策が廃止されましたが、今年も転作をすれば補助金は支払われるらしく、村全体で転作をやめるという方針を出さない限り、1人が転作をやめたいと思っても現在の農業の仕組みの中では難しい現状があります。一方、自社田ではそういったしがらみにとらわれず、土から田んぼに取り組むことができるので、雨の少ない年でも稲がしっかり育つような保水性のある土をつくったり、雨水で流出してしまった田んぼに土を入れたりなど、より理想とする山田錦栽培に近づけることができます。
若手社員による酒米づくり
現在黒田庄にて山田錦栽培に携わっている社員は5名。34歳の金子さん以外は皆20代前半という、非常に若いスタッフが農業に取り組んでいます。入社したての社員が研修も兼ねて黒田庄に配属されることが多いらしく、きちんと萬乗醸造の社員皆が田んぼも語れるようにするためということです。
▲左から金子さん、竹山さん、西村さん、竹内さん。田んぼと同じ黒田庄にある「農家レストラン日時計」で頂く九平治定食。食べごたえ抜群で、体の中から綺麗になるような味わいでした。
新蔵の建設「農醸計画」
黒田庄門柳地区に新蔵を建設する計画が着々と進んでいます。門柳は萬乗醸造が自社田を持つエリアの1つです。黒田庄で育ったその年の米を黒田庄の水を使って、黒田庄の空気の中で醸す。これこそ本当の意味での土地・土壌・気候つまり、テロワールを表現することだと萬乗醸造社長・久野九平次さんは考えていらっしゃいます。酒米の栽培から米の管理、精米、醸造、酒の貯蔵までの工程が見られる蔵で、いずれは日本酒に興味がある学生達が体験、見学できるような企画もしていきたいという金子さん。その人達が萬乗醸造で働くなり、他の蔵で働くなり、ここで学んだ体験が将来の職に繋がっていけば良いと大きな構想を語って下さいました。
▲この右手に新蔵が建設されます。奥に移る杉林の後方には黒田庄で育てた酒米を精米する精米場をつくります。左手には萬乗醸造の自社田が広がっています。
理想とする山田錦栽培
東条の近くに、県から依頼を受けた農家さんが来年以降の山田錦の種にする為の稲を育てている「兵庫県指定採種ほ場」があります。これは純粋に子孫を残すための栽培で、食用でも酒づくり用でもありません。健全な稲が育つような種を残すための稲を育てるので、決して病気に感染せず、健全な形で保管しなければなりません。ここの稲は背を低くしっかりと根を張る様育てられているので台風に吹かれても倒れることはなく、病気の温床になりやすい周りの草木もしっかりと刈られていていつ来ても綺麗だと言います。「中々ここまではできないけど、この様な栽培ができたら理想」と話す金子さん。健全な育成をした米ほど、酒は素直な発酵をするという考えのもと、新人スタッフと共に毎年新たな目標を掲げ山田錦栽培に取り組み続けています。
▲兵庫県指定採種ほ場の山田錦。周りの草木が刈り取られ非常に綺麗。
長文にお付き合いいただきありがとうございます。蔵元さんでの醸造設備や醸造風景などを拝見させていただく場面は多かったのですが、今回改めて酒米に着目し、田んぼを見学することは新鮮でいい刺激を受けることができました。また、個人的には都会とは違う田園風景にも癒されました。今回ご紹介させていただいたのは萬乗醸造さんの田んぼでしたが、他にも自社で田んぼを持ち、お酒を造っていらっしゃる蔵元さんはたくさんいらっしゃいます。そんな米粒1つ1つに造り手の思いがつまったお酒たち、気になる方はハッシュタグにまとめてみましたので試してみてください。チーム九平次のみなさん今回はありがとうございました!