「東魁盛」小泉酒造を訪ねて

はせがわ酒店オンライン店の池辺です。はせがわ酒店では近年、酒質向上の著しい関東の蔵に注目しており、もっと多くの方にそのお酒を知って貰いたいと考えています。そこで今回ご紹介するのは「東魁盛」を醸す小泉酒造です。卓越した吟醸造りの技術を持ち、自社栽培も行う独自の酒造りについてお話をお伺いしてきました。訪れると、まず目に飛び込んでくるのは「ソムリエハウス酒匠の館」。周辺の観光スポットとなっており、お酒やおつまみなどの購入の他、ガラス越しに、蔵の内部を見学する事が出来ます。

圧巻なのはスペースの壁面に所狭しと飾られた賞状の数々。全国新酒鑑評会をはじめ、蔵が獲得してきた輝かしい経歴に、ここを訪れた誰もが目を見張るに違いありません。冗談交じりに「小さな蔵だけど賞状とトロフィーの数だけはどこにも負けません」と十三代目当主の小泉平蔵さんが語るのもうなずけます。

小泉酒造の創業は寛政5年(1793年)。昭和初期より冷蔵庫を蔵内に作ってお酒の品質向上に努め、さらに周りに先立って当時先進的であった吟醸造りに力を入れています。そのより良いものを追求する気風は今も脈々と受け継がれ、SAKE COMPETITION2017において純米大吟醸部門の2位を受賞したのは記憶に新しいところです。そんな大吟醸造りに定評のある小泉酒造ですが、実は米作りから一貫して酒造りを行う、ドメーヌ蔵としての一面も持っています。現在酒造りを取り仕切り、将来14代目となる小泉文章専務を中心に、蔵人4人で米作りから酒造りまで全てを行っています。

田んぼは粘土質。全て五百万石を栽培しており、4カ所ある田んぼの収穫からタンク4~5本のお酒を仕込んでいます。自社田は蔵に近接しており、一番近いところで歩いて1、2分の距離です。何かあれば直ぐに気付き、対応が出来る距離ですが、それでもやっかいなのが野生の動物たちの存在です。蔵周辺では特にイノシシの出没が相次ぐ為、田んぼだけでなく、仕込蔵の裏手まで電気柵で囲わなければならないほど。田んぼへは泥遊びで入ってしまい、その結果稲を荒らしてしまうそう。また、食害の原因となる鹿も生息しており、柔らかい葉を好むためキャベツなどの野菜ではなく、穂が出る前の稲が被害に遭ってしまうようです。その他猿の出没なども有り…なかなか一筋縄ではいきません。また、良い酒米を得るための田んぼ造りにおいても課題が多く有り、直ぐに改善出来ないもどかしさも感じているとの事でした。

苦労をしつつも酒米を自分たちの手で栽培する理由は、毎年変わる米質が分かる事。その年の天候や、田んぼごとの置かれた環境の違いによる影響はもちろんの事、1枚の田んぼの中でも場所によって米質は異なるそうです。買ってきた精米済みの酒米からは決して知る事の出来ないそういった情報を酒造りに活かせる事が、大きなメリットとなっています。

蔵のすぐ隣には川がありますが、その昔洪水を引き起こし、増水した川の水が蔵を襲ったため、現在の仕込蔵は敷地の中でも一段高い位置に建っています。昔の蔵には当時使用していた和釜が残っており、蒸し米作りではなく普通酒の火入れに今も活用しています。その他敷地内には小泉酒造が大きく発展を遂げた明治期に建てた土蔵や煙突も見る事が出来ます。

その反面、現在の仕込蔵は、とてもコンパクトにまとめられ、作業を効率的に行う事が出来そうな印象を受けます。

基本的な事ですが酒造りに使う道具は特に徹底して洗うそうで、絶対に気を抜かないようにしているとの事。数多くの受賞歴を持つ理由を伺ったとき、「基本を忠実に守る事」だと教えていただきました。基本をおろそかにしない事はもちろん、基本を守る意味までしっかりと理解し、造りに臨んでいるのが伝わってきました。

そんな小泉酒造が目指すお酒は「飲み飽きしない酒」。東魁盛を味わうと、綺麗な香りとほんのりと甘さを伴う優しい口当たりに思わず頬が緩みます。滑らかな旨味が広がり、最後はドライなキレを持った好バランス。お料理と合わせればその旨味を引き出し、もう一杯と杯が進みます。文章専務は「まだ、理想の味わいを具体的にイメージ出来ているわけではないんです。造りながら探っている段階です。」と言いますが、その高い技術力と味わいで東魁盛はもっと多くの人に受け入れられていくのではと感じました。

千葉県のお酒というと具体的なイメージを持っている方はまだまだ少ないかもしれません。しかし、少しでも興味を持っていただけたらお試しされる事を強くお勧め致します。特に東魁盛には、こんなお酒があったんだときっと驚いていただけますよ(^_-)!